掲載作品の一覧 / 修正履歴 / ブログ /

2002年頃、不景気の中で起こった空前のパチスロブーム。そんなご時世に学校を卒業し新社会人となった若者は、もっぱら仕事帰りのパチスロに勤しんでいた――。

長編小説 / 社会ふ適合

1話目 | 設定 | MAP | 公開-2025/3/17

10G目:それぞれのやり方

下スキップアイコン

閉店間際のホールを足早に歩く。回転数のメモを取っていくためだ。

携帯のメモ帳に最初の番台を入れ、あとは回転数だけをメモっていく。

あと2分で閉店だがまだ打っている台の回転数はそれにシャープをつけて、ビッグとバケの総回数を足した数字を加えておく。もしその台が閉店ギリギリで当たってしまった場合に、それと比べれはわかるわけだ。

最初は深くハマった台や連チャン途中の低いゲーム数だけを取っていたが、今は天井がある機種なら全て取るようになった。

200や300のゲーム数でも取っておけば翌日の最初の当たった回転数と合わせて天井を越え設定変更がわかったりする事もあるからだ。

このデータさえあれば、次の日に勝てる可能性がかなり上がる。負ける気がしないほどだ。

「先に行ってから」

同じくデータ取りをしていたカズキがそう言ってきた。もうデータを取り終わったのだろう。さっさと店を出ていった。

行先はいつものファミレスだ。閉店間際のデータ取りは簡単な作業だが、それには個性がでる。

カズキは基本的に高設定を狙いにいくので他の機種のゲーム数は目ぼしいものだけ取り、狙う機種の情報に特化して最終停止の出目もチェックしていく。ついでに、その日の設定の高低や偶数なのか奇数なのかの予想もしていくやり方だ。

ユウジはゲーム数自体はあまり取らず店のクセを読むためにその日の出玉推移を確認しつつ、明日高設定の入りそうな台番をメモしていくやり方で高設定をピンポイント予想していく。

ユウジは読みさえ当たれば大きく勝ち、カズキは特定の機種に絞ることで精度を上げ、例え狙いを外してもハイエナでフォローする感じだ。

自分はというと高設定を探すためのデータは取らない。あくまでハイエナ主体で、そのかわりに低い回転数でも残らず数値を取っていくようにしている。2人に比べればだいぶ保守的なやり方になる。

先ほどシャープをつけたまだ続行中の台を横目に確認してから店を出て、いつものファミレスにむかった。

「18番台、最後当たってた?」

座るなり聞いてくるユウジ。

「ビッグ消化中だった」

「なんだよー、当たったのかよー」

残念そうにいうユウジ。

「何? 狙ってたの?」

「明日、あそこに入っと思うんだよね」

どうやらユウジの予想台だったようだ。たぶん当たっていなければリセットついでに設定を上げるとか予想したのだろう。

「今日おめーのやってたメタスラって6だったのかよ?」

カズキがユウジに質問する。

「ん、6じゃん。3千枚出たし」

自信がみなぎるユウジだが根拠になっていない。

「メタスラって解析まだでてねーだろ」

「たぶん6は解除が早いと思うんだ」

ユウジは自己解析を披露する。自信があるようだが、あてにならない。カズキも信用していないようだ。

だが、最近は特にイベントのない平日でも高設定が入ることが多くなった。それだけ店が儲かっているということなのだろう。

「今からヨシハルが来るって」

携帯をいじりながらカズキがいう。

「うそ! ヨシハル? こっちにいたんだ?」

派手に驚くユウジ。いちいちリアクションがでかい。

「いや、大学が終わって帰ってきたんだろ」

「大学かー、俺もいけばよかったなー」

「俺らがいっても意味ねーよ」

カズキは興味なさそうにいう。

地元には田舎すぎて大学が少ない。普通の学力では県外に出ることになり、それにかかる費用と手間から大学を選びにくい環境だった。妥協して自分やユウジのように専門学校という手段をとったりする者は多かった。

「ひさしぶりじゃん」

現れたヨシハル。前に見た時より少し太ったようだ。

「いやー、就職決まんねーよ」

座るなりこう言うヨシハル。言葉とは裏腹に顔はニヤけている。

「就職活動したんだ?」

気になったので聞いてみた。あのヨシハルがスーツを着て就活する姿は想像できない。

「全然してねー」

嬉しそうに言うヨシハル。

「何しに大学行ったんだよ」

「パチンコだろ」

カズキが即座に突っ込む。

「パチンコ大学のスロット学部だ」

ユウジもそれに乗って調子良くいう。

「いやさー、大学の近くにスロ専ができてさー、もういきまくり」

「ツトムとカズキなんて仕事ヤメてっかんね」

「マジで―? ヤメたのかよ!」

そう笑いながら驚くヨシハル。

「んで、月いくらいく?」

ヨシハルが唐突に聞いてくる。これを聞いてくるということはヨシハルもそれなりに勝っているのだろう。

「まちまちだけど、40前後かな」

「マジで?おいしくねー。何やってんの? ハイエナ?」

「そうだね。だけど最近は結構、高設定入ってて、そっちもあるかな」

「へー、環境いいんだ」

そういうがヨシハルのいた都内の方が環境はいいだろう。なにせ店の通える数が比較にならない。

「カズキなんかファイドリの高設定けっこう取ってるし」

「だいたい4だけどな」

「ツトムはカエルばっかだし」

「カエルってキンパル?」

ヨシハルが聞いてくる。

「いや、キンパルよりエースの方が多いかな」

「エースの4連って前より当たんなくねー?」

カズキがいう。

「確かにそうかも。でも奥からカエル第一停止で戻るとか熱いじゃん」

「え、あれ熱かったんだ」

そういってビールを飲み干すユウジ。もう4杯目だ

「それか前兆矛盾がらみ、バウンドがらみなら4連でも当たるでしょ」

「それ確定じゃねーの?」

「いや、何回か外してるし」

「もう裏になってるんだろ」

カズキの冗談で笑いが起こった。

「やべー、話してたら打ちたくなってきた」

スロ話に触発されたのかヨシハルが腕まくりしながら言う。

「明日、6入るイベントだよ」

ユウジが余計なことを口走る。

「じゃあ、今から並ぼうぜ」

「まだはえーだろ。つーか、どうせ抽選だし」

「いつもは何時くらいからで並んでんの?」

「8時ちょい前くらいかな」

ヨシハルの質問にそう答えた。

「吉宗は? 何台ある?」

「16台だろ」

「それより吉宗狙うのかよ。勇者すぎんだろ」

「こないだ8000枚出してか面白くてさー」

軽く自慢をはさむヨシハル。

「こないだ6とって7万負けたよ」

カズキがぼやく。

「吉宗の姫ビッグ、あれアユじゃね?」

ユウジがいきなり話を変える。

「似てるきがするけど違うでしょ」

最近のスロットは歌詞付きの曲が流れたりする。凄い進化だ。

「俺、爺しか選らばねーし、男は黙って爺だろ」

ヨシハルが勇ましく宣言する。

「北斗はー? もうやった?」

ユウジが再び話を変える。

「まだ、やってねー」

「あれ、おもしろくねー?」

ヨシハルが食い付く。よほど向こうでスロット漬けの生活をしてきたんだろう。仕送りをする親が可愛そうだ。

「やったけど、ほんとに最低66パーあんの?全然連チャンしないし」

何度かやったがみながいうような恩恵はまだあずかれていない。単発ばかりだ。噂だが長く連チャンすると特別な演出が見れるらしいと噂になっていた。

「イベント何人くらい来る?」

「40人くらいじゃねー」

「どうする? もう並ぶ?」

「だから早すぎるだろ」

まだ午前3時だ。並ぶにしても早すぎる。

「じゃあ、カラオケでもいく?」

ユウジが提案する。こいつの提案はいつもカラオケか居酒屋しかない。酒が基準なのだろう。

「えー、疲れてっから少し寝て―よ」

ヨシハルがぐずり始める。

「おめーさっき並ぶとか言ってただろーが。なら漫喫でいいだろ」

カズキが間を取って決める。

「おれ昨日から寝てねーんだよ」

ヨシハルの寝てない自慢を無視して漫画喫茶へと移動し、朝方パチ屋へ並び、夜はまたファミレスという流れになった。

さらに翌日もこの流れを繰り返しヨシハルが実家の布団で寝られたのは、その2日後のことになったというのをあとから聞いた。

2004年3月21日 -4000円

#9←前話・次話→11G目:北斗の6

(現在地:社会ふ適合/10G目:それぞれのやり方)

作品の一覧 / 修正履歴 / ブログ /

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA