早朝から隠れてゲームをする少年。そんなものはお見通しの母。少年は、しかたなく中断し下階へと降りていく。ゲーム機の電源は入れたまま――。
長編小説 / 仮想追従~連載中~
閉ざされた空間が赤く明滅する。
おそらく警報音がなっているであろうが今は聞こえない。
作戦内容の確認事項が提示され青白く透過された数値の並ぶ先、幾層にもなる隔壁が動き始めている。その最後が開くのをおとなしく待った。
「そ―ら―、起きてるんでしょ―」
場違いな声が現実から響くが気にせず続ける。
動き続ける隔壁の先、まだ見ぬその先には虚空が待っている。
ひとたび開けば、地にむかい放り出され戻ることはない。
地上に居を構える敵対企業に対し報復を兼ねた制裁行為の敢行。だが、地上ルートからの侵攻に対し敵対企業は堅牢な防衛網を展開している。
防御の薄い上空からの侵入と企業本社への直接攻撃――、予定されている未来を覆すため極高高度からの奇襲降下作戦へと至った。
これが最後の任務になるだろう。
「いい加減に降りて来なさーい」
いらだちを含んだ呼び声が下階から響く。
「……は―い、今いくよ」
布団をかぶった少年は、しかたなさそうに大きな返事をした。
少年はテレビの電源を切り、買ってもらったばかりのゲーム機の電源ランプ部分に布をかけてから部屋をでた。
1階のリビングに降りると朝食が用意されている。またパンだ。
「またゲームやってたんでしょ」
母親はテレビから視線を外さず、呆れるようにいった。
「いつもは起きないくせに、どうして休みの日だけは自分で起きるのよ」
自分だってご飯のときにテレビを見るなといってるくせに、今日はテレビをつけてるじゃんと少年は思ったが口にはしなかった。
「パパに買ってもらったやつやってるの? 前にも買った同じのあるじゃない」
母親はまたあきれたようにいう。どれも同じに見るらしい。
「新しいプレイキューブは2なの。ぜんぜん性能が違うの」
少年はわからないだろうが説明する。
「ふーん」
意に介す様子はない。母にはゲーム機の性能の進化スピードも、そのソフトの質と多様性の凄さがわからないのだ。
「カセットも似たようなやつばばっかり欲しがって。敵をやっつけるだけで、どれも同じじゃないの」
すでにカセットの時代は終わっていることすら知らない。母の中では、いつまでも横スクロールで小さいキャラクターが動いて敵シンボルを踏んづけるゲームのままだ。
「ぜんぜん違うよ。次世代の規格基準で競いあう対立企業が協定を破ったから制裁として経済的打撃を与えてることが目的で、やっつけるとかとは別なの」
「へー、いまのやつって難しいのねー」
母はまったく興味を示さない。
その後も母親の小言を聞きながら、少年は朝食を事務的に流し込んでいく。
「終わったら歯磨きだからね」
先回りするように釘をさされた。
少年は朝食をすませ、食器をキッチンに戻した後に洗面所に向う。
時間をかせぐために、なるべくゆっくり歯磨きしながら洗濯カゴを見ると父親のものがないことに気づいた。母親の機嫌が悪い理由を何となく察した少年は、これからどうやってゲームの続きをやろうか考える。
こっそり2階に戻ってゲームをやるか、母にやっていいか聞きにいくか、少年は考える。あのラストミッションが終わればエンディングになる。いいところで邪魔をされたくない。
リビングに戻ると母親がテレビの前で立ち止まっている。
「お母さん、お父さんは―?」
母親の後ろ姿に問いかけるが返事はない。
何を見入っているのかとテレビを覗く。
さっきからやっている『たいしかんせんきょじけん』というやつだ。
違うのは、さっきよりも忙しそうなこと。ずっと『ばくはつした』、『きどうたいいんにふしょうしゃがでた』とか、『げんばはたいへんこんらんしている』を繰り返していた。
「ねえ、部屋に戻ってもいい?」
母親に尋ねるが返事がない。
ほどなくして電話がなって急にどこかに行くことになる。
迎えにきた車に乗せられた少年は窓から見える景色を眺めながら、つけっぱなしにしてきたゲームのことを考えていた。
/| TO BE CONTINUED →
(現在地:長編/仮想追従/1話:つけっぱ…)