2002年頃、不景気の中で起こった空前のパチスロブーム。そんなご時世に学校を卒業し新社会人となった若者は、もっぱら仕事帰りのパチスロに勤しんでいた――。
長編小説 / 社会ふ適合
枕元の携帯電話が震えている。もう朝だ。
時間は8時きっかり3度振動して止まるのはメールの合図、パチンコ屋の朝の営業メールだ。
これが自動で無料のモーニングコールになる。例え二度寝してしまっても大丈夫、今度は違う店からメールが届いた。実に仕事熱心なことだ。
眠気もそうだが寒さから布団にくるまったままメールをチェックする。
だが、これは大抵意味をなさない。メールの内容は正直どうでもいいのだが一応確認をしてみる。
―― 本日、狂乱狂い咲き! 一撃万枚、時速5千枚を手にするのはあなただ! 本日強化コーナー潜伏中! さらに当店自慢の万枚製造機がそれを迎え撃つ! 強烈連チャン機も名乗りをあげる! 本日9時開店!! ――
こんな内容のメールだ。頭が悪い事この上ない。
肝心の設定などの具体的な内容はほとんど含まれていない。とにかく煽り文句がこれでもかと並んでいるだけだ。
運さえよければ何とかなると、自分で何とかしろと言わんばかりだ。こんなメールを見て高設定を探して出してやろうとは思わない。
実際にAT機の高設定など打った事など一度もない。見たこともほとんどない。どこどこで何千枚、何万枚出たとかいう話のほとんどは低設定の誤爆だ。
店には高設定がない。そんな低設定だらけの中でハマリ台と特定のゲーム数を追って店を転々とする日が続く。
収支は格段によくなった。
やる事自体は変わらないが取り組みの回数、量が増えた。ただそれだけで今や月収は安定して20万を越える。ついこの間まで10万にも届かずにいたのが嘘のようだ。
10万と20万――、金持ちにはどんぐりかもしれないが、この差はとてつもなく大きい。生活が成り立つか成り立たないか、その境界がそこにある。
それがハイエナで手に入ったのだ。
ゆっくりと支度してアパートを出た。別に急ぐ理由はない。お昼過ぎから行ってもいいくらいだが、やることもないので朝のリセット漁りにいく。
裏道を通ってセブンズへむかう。暖房を入れてはみるが息は白い。温まる前に到着してしまうだろう。
まだまばら駐車場に車を止め店内に入ってみるとそこそこ客の入りだ。ここ最近少し増えたような気がする。
この前の新装で入れた新台のせいだろう。しかし、そのせいでキンパルは半分の台数になってしまった。とはいえ今はそこまで困った事ではない。
さっそく昨日のそれらしき台を渡り歩くも音沙汰なし。気を取り直してマジパルの履歴を確認しにいく。
端からチェックしていくも前回大ハマり台はなし。前々回以上のゲーム数から連チャンモードにいた可能性もみられない。今日は不作だ。もうこれで用はない。わずか15分の滞在で店を出る。
次はロジャーだ。途中のコンビニで朝ご飯を買って食べながらむかう。
店に到着しハッピークリスマスと書かれた可愛らしいポップの間を通り抜け店内をざっと流して見て回る。
ハマり台がないか念のため確認してから、そのままマジパルのチェックに入り1台、2台と横に滑っていき客が打っている台は飛ばして続けていく。
ない、ない、ない――、あった。
最終ボーナス履歴が1331ゲームの台だ。消されていなければになるが、この店はほぼ据え置きなのでたぶん大丈夫だろう。
だが、やり始めるも当たらない。深いゲーム数が選ばれているようだ。毎度の事ながら最悪の可能性を考えると頭が痛い。
この台の悪い仕様ではあるがおかげで拾えるのだから仕方ない。それに連チャンモードならハズレからのMZに突入率に倍の確率差があり気休めにはなる。
途中に入ったMZを華麗にスルーし600ゲームほど回して出てきたのはバケだった。
昨日の最終数が160付近だと考えれば、これはバケ天井の可能性が高い。仮にそうじゃなくともあと100と少しも回せばバケが出てきたはずだ。
すでに前の店で6千円、今この台で2万円も使ってしまった。せめてビッグが2連はして欲しいところだ。
そう願いつつレバーを叩くこと31ゲーム目、リールにチャンス目が出た。
このチャンス目はMZに当選していると飛躍的に出やすくなる。30ゲーム目の周期MZに引っかかったか? そんな希望を現実に変えるべく演出の発生を待つ。
連続演出になり最終ゲームと思われる36ゲーム目の演出をキャンセルすると見事MZに突入した。とにかく当たれとレバーを強めに叩く。
MZ突入から15ゲーム目に下パネルが高速で点滅する。
――熱い。リプレイ解除か? それともゲーム数か? ともかくこれが当たりにつながる。本日初のビッグを手にした。
このビッグを皮切りにバケを挟み計3連の800枚で終わる事ができた。これで負けは半分、次なる台を探しにでる。
首を左右に動かしながら通路を歩く。
スロット台だらけの空間、めまぐるしく入れ替わる機種に囲まれた道を歩く。なのに全部の機種に触れられるわけじゃない。朝から晩までスロット漬けの生活でも打てる機種は少ないのだ。
勝つためハイエナに徹すれば打たずに終わる機種の方が圧倒的に多くなる。打ってみたい。でも分の悪い勝負はしたくない。そんな矛盾した気持ちで台を眺める。
キィーン! 脳内に届くような甲高い電子音がホール内に響いた。
なんとなく聞こえた方に足をむける。その先にあったのは先月に入った話題の新台の島だ。
ビッグ1回で現行規定最大となる711枚が獲得できるストック機。その内の1台がビッグ中でリール右横のランプが光っている。
さっきのあのやかましい音はこのランプが光った時のものだ。
打っている客の表情は見えないが、きっと笑みを浮かべているに違いない。羨ましい限りだ。
なにせあの音は1ゲーム連の確定音だから。今消化中のビッグが終わるとまたビッグが揃えられる。711枚が1ゲームで連チャン、金額にして1万4千円相当が、だ。
さらにその連チャンから再び1ゲーム連が発生する可能性もある。1回で2万8千円、2回なら4万2千円、3回なら――。
この刺激的なゲーム性はすぐに客を虜にした。
休日など朝から満席、立ち見の客が出るほどだ。時に空き台を巡ってケンカになるような事もしばしば見受けられた。
だが、その性能と引き換えに天井は1920ゲームという気の遠くなるような深さになっている。 とてつもなく深い天井で金額にして7万円に届こうかという額だ。
導入された当初は1920ゲーム天井と聞いて一体どこの誰がそんな台をやるんだと思っていた。
最悪は7万近い額を失って、たった1回当たるだけ。それもビッグならまだ格好もつくがバケだった場合は120枚と限りなく低い1ゲーム連の抽選という絶望が待っている。
さすがに毎回という頻度ではないが、それよりは低い1000ハマり程度は当たり前という恐ろしい台だ。
だが、一度でもこの1ゲーム連を味わい大勝を手にするとリスクを忘れ、それを求めるようになる。非常に中毒性の高い台だ。
この台にもゲーム数解除の濃い部分、ゾーンと呼ばれるものがある。
単純にそこだけ狙う打ち方が考えられるが客付きがよすぎてゾーンどころか空き台すらままならないという状況が続いていた。
1ゲーム連を見届けてからマジパルの島に戻ると、さっき打っていたお客の姿がない。
バケを引いて76ゲーム回して隣へ移動したようだ。散らかったタバコの灰が目につくが確認しそびれた履歴を見てみる。
前回785での当選。つまりこのバケは天井だ。
このマジパルは次回ボーナスがバケの場合777以上のゲーム数が選択されたとしても777ゲームに書き換えられる。考えようによっては1312以上のハマりがバケによって777ゲームに短縮された可能性もある。
だとすれば、この台はやってみてもいいかもしれない。そう考えて打ち出すことにした。
打ち進めながら、どこまで追うべきかを考える。
今回はあくまで予想だ。思惑がハズレて連チャンモードにいる可能性が低い可能性も考慮しなければいけない。とりあえずは256ゲームまでにMZにも入らずスルーしたら諦めようと決めてレバーを叩いていく。
だが、そんな心配をよそにあっさりと当たってくれた。
打ちだしてわずか50ゲームで、しかもビッグだ。隣にいる客の恨めしい気配を感じつつ軽快にビッグを消化していく。
ヤメ時を160ゲームにするか288ゲームにするか悩みながら打っていくと、ここからビッグが6連しメダルがあっという間に2000枚になった。
大満足の結果になったが、それに慢心せずに次なる台に移動する。
2つ隣りの現在570ゲームの台を確保し迷うことなく打ち進めた。
この台はあと30ゲームと少しでMZに入る。絶対にだ。
さっきの台での連チャンしている最中に台の様子を見ていた。一度もMZに入らずに、このゲーム数まで来ている台だ。
マジパルの周期MZの抽選は当選するまで継続する。そして、その最大周期は600ゲームにあり一度も当選していなければ必ずここでMZに入るようになっている。
チャンスゾーンであるMZは必ずボーナスが当たるようなものではないが、やる価値は十分にあるだろう。
ボワン――、低い音とともにMZランプに明かりが灯る。
当たれば儲けものだが、これが解除せず終わった。まぁ、こんなものだ。
一応は一番近い次の周期まで回し665ゲームで手を止める。ここから最後まで追うか迷ったが、ここは一旦ヤメることにした。
次なる台を探しに席を立つ。
だが、すぐに出来そうな台はなかった。またしばらくウロウロする。
スロットコーナーを三周してからマジパルの島に戻ると1人の客が席を立った。
上のデータカウンタは783だ。777がバケ天井という事は知っていたのかもしれない。確かにここからでも最深天井まではかなりあるのでヤメ時としては正解だろう。
しかし、この台は今日まだ一度も当たっていない。
リセットされていなければ、これよりハマっている可能性が高い。
おそらく前日160から400までのハマりがありそうなところで、足せば最低でも900以上、もしかすると1200を越えるかもしれない。だとすればお宝台だ。
当然この台をキープし、2箱と下皿にあったメダルを持って移動する。
回しだして180ゲームで当たりが来た。777を越えているからバケの可能性はなし、ビッグ確定なので気が楽だ。
ビッグを消化し後はとにかく早いゲーム数が選ばれ連チャンするのを願う。
だが、160ゲームをスルーし288ゲームをスルーしてしまった。
連チャンモードならここまでに80%近く当たるはずなのに当たらなかった。連チャンモードではないのかもしれない。
ここは無理せずヤメることにした。連チャンせずに288ゲームまで回してしまったのでメダルはほとんど残っていない。せっかくいい台を拾えたのにチャンスを活かせなかった。
仕方ないのだ。こういう事もよくある。とにかくこうして回数をこなしていいけば結果は付いてくるはずだ。
幸いマジパルはどこの店にも入っている。前回1312以上で連チャンなし台を基本に、それを当たるまで打ち、その後の展開次第で160ヤメか288ヤメを選ぶ。補助として777バケ天井と周期MZを見ておく。今やっている立ち回りはこんな感じだ。
だが、マジパルのハイエナ期待収支の記事はいっこうに載らず、載っても自分のやるようなモード推測込みの期待値はでていない。あくまで勝てそうだという推測に過ぎない。だが、結果が出ているうちは続けるつもりだ。
午後6時20分。店を周回するもやる台もなく客も増えてきた。店を変えてもきっと同じだろう。今日は少し早めに切り上げて帰る事にした。
カズキもユウジに電話するも捕まらない。どこかで忙しく打っているのだろう。仕方なくジュンコに電話して夕飯を頼んでおく。
アパートに着くといい匂いが漂っている。ちょうど作っている最中のようだ。これで今日の食費が浮く。だが、台所が汚かったと文句を言われるだろう。
「そういえば、ちゃんと仕事探してんの?」
夕飯を食べ終わるなり、またジュンコの小言が始まった。
「そろそろするよ」
「パチンコばっかりやってないで、職安行きなよ」
「職安ってハローワークの事?」
「そうだよ。他にあんの?」
鋭い目つきでいうジュンコ。
「……あとでいくよ」
「大体、お金あんの? もう貸さないからね」
「最近、勝ってるから大丈夫」
「へー、いくら?」
「13万位かな」
嘘だ。本当は30万以上、言ったらろくな事にならいない。
「勝ってる内にやめときな」
「うん、そうするよ」
ここは大人しく聞きいれたふりをしてやり過ごす。
「そうしな、いつまでも続くわけないんだから、そんなまぐれ」
まぐれ……、その言葉がズシンと響いた。
翌朝、車を飛ばしてロジャーに向かう。少し寝坊してしまったからだ。
20人ほどの列が見えた。この寒い中で開店を並んで待っているのだ。車から降りるとその寒さが身にしみる。列に加わるべく歩き出すと列の最後尾にいるのはカズキだと気付いた。
「仕事は?」
そう話しかけた。今日は平日のはずだ。
「知らねー、あんなとこ」
不機嫌そうに答えるカズキ。首をすぼめて両手を脇の下に挟み、いかにも寒そうだ。
「なんだ、さぼって朝からスロットかよ」
「あたりめーだよ。仕事なんてやってられねーっての」
そう言うカズキは嬉しそうだ。
そう話す後ろでは会員カードを持つ客たちの優先入場が始った。まだ9時前だが、この店は5分前には先に入れる。
「そういや今日だろグランドオープン」
唐突に切り出したカズキ。グランドオープンとは新規店のオープンの事だ。
「どこで?」
「笠間の方。6時オープンだってよ」
「へー、どうせ整理券とか順で入場でしょ」
「そうだけど整理券2枚貰ったからやるよ」
そういって整理券を手渡してくるカズキ。それを受け取ってすぐに入場が始まり店内へ進んだ。
キンパル、マジパルといつも通り動いて、すぐにやる台がなくなった。もう店を移動するしかないが、その前にカズキを探す。
「俺、他の店行ってくるから行くとき電話して」
やかましい騒音の中で声を張って伝える。
「ああ、でも、これ5以上あっかもしんねーから……」
カズキの言わんとしている事はわかっていた。 そもそもカズキが粘っている時点で設定推測要素のどれかが良かったのだろう。
「わかった。そん時は一人で行くよ」
そう了解して店を出た。 とりあえずロジャーに決めて車を出した。
到着し、店内に入ると相変わらずマジパルの島には客がいない。 だが全くいないわけではなく、チラホラと客が現れては離れていく。いい感じだ。
ひと通り打って時間を確認すると午後4時になろうとしている。
店を出てカズキに電話しようと思っていた矢先に、そのカズキからかかってきた。
「ダーメだぁ、ダメダメだ」
第一声がこの情けない声だ。
「なんだ高設定じゃなかったんだ」
「たぶん隣り、あーあ、失敗した。一回どいたんだけどビッグ中で移れなかったんだよ」
悔しそうなカズキ。結構引きずる性格だ。
「どんまい。で、場所はどこなの?」
「ああ、笠間の昔、ニトリがあったとこ」
「ニトリ? 分かんない」
「あれだよ、昔アルペンってとこの後にできた店だよ」
「余計にわかんないし」
「じゃ、乗せてくからそこで待ってろ」
そう言って電話を切られた。せっかちな奴だ。 カズキはパチンコに関して事情通だ。早くから……、中学校もそこそこにパチンコ店に出入りしていて昔の店の経緯などをよく知っていた。 知っている限りでも三度は店から出入り禁止になっている。
ほどなく白のビッグホーンが唸りを上げて駐車場に乗り込んできた。
カズキの車に乗せられて走ること20分。店が見えてくる。 店名は『フォーユー』というらしい。いかにもといったネオン看板ではなく今風のおしゃれな感じだ。
「うわ、結構集まってんな」
カズキが駐車場の様子をみていった。
「まあまあいるね」
「最近多いよな。スロ専の新規オープン」
駐車場にたむろする客を見ながらカズキが言う。スロ専とはスロット専門店の略だ。
「儲かるからじゃん。玉なんかよりストック機入れとけばウハウハでしょ」
列の最後尾に加わる。まだ開店まで2時間もあるが50人は並んでいるだろう。
「どうせ大して出さねーのによく集まるよな」
並びの中でそうぼやくカズキ。
確かに師走から一月前半にかけてのかきいれ時に合わせた感の強い新規オープンが最近特に目立った。 最近のスロット好調に便乗したといったところだろう。
「昔は6時オープンつったら全6とか普通だったけど最近のは全然設定使ってねーし」
カズキが憎らしそうに言う。
「あんまり期待してもしょうがないか」
いよいよ入場となった。カズキとはそれっきりで店の中で話はしなかった。お互い確保した台とその周りの台の挙動を見るのに忙しく、店の中でのんびりと会話するどころではない。
たぶんカズキはファイヤードリフトにむかったのだろう。自分はキンパルの島にいったんむかったがストックの有無がわからない状況を考慮して、とりあえず天井の浅いネオプラネットに座ることにした。
夜空に怒鳴り声が聞こえる。負け犬の遠吠えというやつだろう。
短い開店時間を終えた店から続々と客が出てくる。その中の一人が吠えたに違いない。きっと大きく負けたか、閉店で連チャンを取り切れずに目の前で当たっているにも関わらず無効だと諦めさせられたとかの類だ。
交換所には長い列が出来ている。店から出てくる客の大半は列に加わる。時間が短い変則時間でのオープンは僅かな端数を閉店で流す客も多く、こうなりやすい。
その中からカズキがようやく出てきた。手に景品はない。
「負けたの?」
「いや、勝った」
そう言いながら財布にカードをしまうカズキ。会員カードを作り貯メダルしてきたようだ。
「しかし、ひどかったな」
カズキが交換所の列を見ながら話す。
「全然設定入ってなかったぽいね。初日からこれじゃ客入らないんじゃない」
「いや入るだろ。盆と正月は黙ってても入る」
強い口調で言うカズキ。パチンコ店でバイト経験がある言葉は重みがある。
寒空にぞろぞろと長い列を作る客たちの表情もさえない。明るいのは店の看板と見送りをする店員の顔だけだ。
ほんの少し昔までは新装や新規オープンといえばお祭り状態が普通だった。年に数回しかない特別な日。それがいつしか毎週のように新装が行われ新規オープンはグランドオープンと尊大な呼び方に変わり、あちこちで行われるようになった。
数が増えれば質は下がる一方だ。一般の客の中にもそれは認知されつつあり期待感は失われつつある。
それでも客が集まるのは今はなくなってしまった昔ながらの小さな店が年に数回見せてきた特別な日という印象が今も生きているからだろう。その眩しい過去の幻影に集まる客たちを県にまたがりチェーン展開するグループ経営店がさらっていく。
「でも、ラインナップはまあまあだな。ハイエナ効く台が多い」
寒さで肩を小刻みに震わしながらカズキが言う。
「確かに。結構使えそう」
「明日もここだな。さっき高確でやめさせられた台あったから消されてたらわかるし」
「またさぼんのかよ」
「いや、仕事ヤメっから」
いたって普通な口調でカズキが言う。たぶん本気だ。
冬の夜空にパチンコ店から発せられる光を受けて、また一人無職が生まれた。
2003年12月20日 +18000円
#9←前話・次話→10G目:それぞれのやり方
(現在地:社会ふ適合/9G目:確かな仕事量)